「ボクの、旅の記憶」ニール・ちくわ

退屈な話を聞いてくれてありがとう。

いろいろな人の気持ちを幸せにする、下町バームクーヘン。錦糸町「乳糖製菓」

僕が小学生の頃、父が見た事もないような大きなカタマリのバームクーヘンを戴いて帰って来た事がある。

父と結婚して将来に失敗した母は、お嬢育ちであり顔の造作は横において、そういうヨーロッパ調の素敵なモノが大好きだったので、いそいそとノリタケ紅茶カップにリプトンを入れ始めた。
昭和40年代にドイツ土産のバームクーヘンなんて、今では想像もできないくらいの価値があったのです。

穴が珍しかった!やっぱり穴があったら指を入れたい。

最初は穴に指を入れて喜んでいた無邪気な僕だった。それを満面の笑顔で見る父と母。
妹はまだ馬鹿面で、背後に雑種のスピッツがキャーンと走っていた。昭和家族の肖像。

穴好き小学生はそれだけでは終わらない。指を入れたら、回したくなる。回すんだったら、下から指を入れて海老一染之助・染太郎のようにグルングルン回したい!そして、回した瞬間崩れ落ちた。
しかも飼ってた雑種の住んでる領域にバームクーヘンが落ちた。

ネグリジェを着て頭にカーラーを巻いた姿のアワワとした母の顔、父の怒ってるからこその無表情を今も思い出す。母は崩れたバームクーヘンを「ここは食べれるんじゃないかしらねぇ」と言いながら、天ぷらを揚げた菜箸で分けていたが、その行為は父の怒りを増長させたのか、彼は煙草も消さず、無言で布団に入ってしまった。

僕のバームクーヘンの記憶である。

錦糸町にきて乳糖製菓さんの前を通った。錦糸町にきた時はいつも買って帰る。アウトレットで安いので、あいつにもあの人にもと沢山買ってしまうのだ。誰もが好印象。
幸せな気持ちになる『下町バームクーヘン』である。

 

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